「作りたいものがない」は、才能の問題じゃない。
個人開発を始めたい。AIでWebサービスを作れる時代なのも分かってる。
でも、作りたいものが浮かばない — その止まり方には、ちゃんと原因と解き方がある。
「思いつかない」の正体は4種類ある
「好きなものを作っていいよ」と言われて手が止まるのは、あなたの発想力が弱いからではない。探索空間が広すぎると人間は探索できない。これは創作全般で知られた性質で、白紙のキャンバスより「お題」があるほうが筆は進む。
ただし「思いつかない」とひとことで言っても、詰まっている場所は人によって違う。対処が変わるので、まず自分がどれかを見分けてほしい。
A. 制約がない — 本当に何も浮かばない
白紙状態。頭の中に候補がゼロ。対処: 制約を外から入れる(→ 02 触媒発想)。これが一番多く、そして一番かんたんに解ける。
B. 評価が早すぎる — 浮かんだ瞬間に自分で潰している
「もうあるでしょ」「誰が使うの」が0.5秒で走る。実際には候補は出ているのに、記録される前に消えている。対処: 出す時間と捨てる時間を物理的に分ける。出している間は良し悪しを一切判定しない。判定は 05 の3つの質問 でまとめてやる。
C. 完成形から考えている — スケールの絵から入っている
「収益化は」「ユーザー獲得は」「競合が来たら」を先に考えて動けなくなる。個人開発の初手でそこまで要る案は、そもそも個人開発向きではない。対処: 最初のユーザーを自分1人に固定する。1人分の需要が確定していれば、それ以上の絵は後から描ける。
D. 他人の基準で測っている — 「話題になる案」を探している
バズった個人開発を見て「あれくらい面白くないと」と思っている状態。基準が外にあると、自分の手元の不便が全部つまらなく見える。対処: 評価軸を「自分が毎週使うか」だけにする。地味でも毎週使うものは、少なくとも1人には確実に刺さっている。
A〜D のどれであっても、解き方は根性ではなく構造だ。制約を先に置く。技術・ジャンル・対象ユーザー・ひねり — 何かを固定した瞬間、「その条件で成立するものは何か?」という答えられる問いに変わる。
制約を先に置く「触媒発想」— 5ステップの手順
種火ではこの「先に置く制約」を触媒と呼んでいる。たとえば「WebGPU × 学習 × 子供 × オフライン限定」のように4軸を固定すると、発想はゼロからではなく掛け算から始まる。
重要なのは、触媒の選択にセンスは要らないこと。乱択でいい。むしろ自分では選ばない組み合わせのほうが、見たことのない案につながる。
4軸の中身
種火が使っている触媒プールは、技術20 × ジャンル15 × 対象12 × ひねり15 = 54,000通り。実物はこんな粒度だ。
| 軸 | 数 | 例 |
|---|---|---|
| 🔧 技術 | 20 | WebGPU / WebRTC / WebAssembly / WebLLM … |
| 🎭 ジャンル | 15 | 学習 / エンタメ / 創作 / 実務ツール … |
| 👤 対象 | 12 | エンジニア / 学生 / 子供 / クリエイター … |
| 🌀 ひねり | 15 | 完全オフライン / 30秒以内 / 音だけ / 1画面 … |
「ひねり」の軸があるのがポイント。技術×ジャンル×対象だけだと既存サービスの言い換えになりやすいが、そこに「音だけ」「1画面」のような制約が1つ入るだけで、既存の何かとは違う形に押し出される。
手順
- 4軸を乱択で固定する。 自分で選ばない。選んだ時点で過去の延長になる
- 問いを置き換える。 「何を作りたいか」ではなく「この4条件を全部満たすWebサービスは何か」。前者は答えられないが、後者は答えられる
- 20秒で判定して捨てる。 長く吟味しない。「見たい/見たくない」だけ。引っかからなければ次の触媒を引く
- 残った案だけ深掘りする。 対象ユーザー・最小機能・収益の形・技術構成をここで初めて具体化する
- 着手前に死角を潰す。 堀があるか、その領域の典型的な失敗は何か(→ 08)
ステップ1〜2は自分の手でもできるが、AIに丸ごと任せたほうが速い。触媒の乱択から案の組み立てまで自動化されているので、「作りたいものがない」状態からでもボタンひとつでWebサービス案が出てくる。出てきた案に「いや、こうじゃない」と感じたら — その違和感がもう、あなたの発想の始まりだ。
AIに丸投げしても多様にはならない — 216件を分類して分かったこと
「発想はAIに任せればいい」と言われるが、実際にやってみるとAIの出力は放っておくと偏る。種火が公開している 216件のWebサービス案(2026-08-02時点)に付いたタグを数えると、こうなった。
| タグ | 件数 | 全体比 |
|---|---|---|
| コミュニティ | 32 | 15% |
| セキュリティ | 23 | 11% |
| AI | 22 | 10% |
| 可視化 | 16 | 7% |
| (以下、約480種類に分散) | 1〜7 |
タグ自体は約480種類に散っているのに、上位4つが全体のかなりの割合を占めている。そして種明かしをすると、この216件の約7割はニュースを入力にして生成されたものだ。ニュースは事件・制度変更・情報漏洩を多く含むので、出力が「コミュニティ」「セキュリティ」「可視化」に寄る。
ここから言えることはひとつ。出力の多様性を決めるのはAIの性能ではなく、入力する制約の設計だ。 同じ仕組みでも、入力をニュースにすれば時事寄りに、乱択の4軸にすれば技術寄りに、自分の手作業にすれば実務寄りに出る。
だから「AIに聞いたけどピンとこなかった」で止まらないでほしい。変えるべきはAIではなく、あなたが与えている入口だ。 入口は下の 06 に4つ、種の掘り起こしは 04 に3つある。
すでに持っている「種」の掘り起こし方
ゼロから引く前に、すでに自分の中にある種を点検する手もある。次の3つは、ほとんどの人が何かしら持っている。乱択の触媒と違って最初から自分ごとなので、モチベーションが切れにくいのが利点だ。
種1: 昔ボツにしたアイデア
ここで大事なのは、ボツにした理由が「今も有効か」を仕分けること。理由は大きく5つに分かれ、そのうち3つはAI時代に前提が壊れている。
| 当時ボツにした理由 | いまの前提 |
|---|---|
| 実装が重すぎる / 時間がない | 壊れた — 実装コストが激減した |
| 必要なAPI・技術が無かった | 壊れた — 使えるAPIが増えた |
| 運用・保守が回せない | 壊れた可能性 — 構成を小さく作り直せる |
| 需要が無かった / 誰も欲しがらなかった | 変わっていない — 復活させても同じ結果 |
| 自分が興味を失った | 変わっていない — 途中で止まる |
上3つが理由だったなら、その案はいま作れる可能性が高い。下2つなら復活させないほうがいい。
→ ⚱ AI供養箱(ボツ案をAIが再評価)種2: 毎週やっている手作業
自分や職場で Excel・紙・メールで回している業務は、検証済みの需要そのもの。ユーザー1人目(自分)が確定しているから、要件もモチベーションも崩れない。
棚卸しのやり方は単純で、1週間ぶんの作業をメモに書き出し、3軸でスコアを付けるだけ。
- 頻度 — 週に何回やるか(多いほど良い)
- 所要時間 — 1回あたり何分か
- イライラ度 — やるたびに「またこれか」と思うか(これが一番重要)
3つとも高いものが最有力。逆に頻度が月1回以下のものは、Web化しても使わなくなる。
→ ✋ AI業務Webシステム化ツール種3: 「高いな」と思いながら使っているSaaS
機能の1割しか使っていないのに月数千円 — その不満は、軽量版Webサービスの需要のサイン。多機能SaaSは大企業の要件に合わせて膨らんでいくので、小さく使いたい層が必ず取り残される。
切り出し方の手順はこう:
- そのSaaSで先月実際に使った機能だけを書き出す(記憶ではなく履歴で)
- そのうち週1回以上使ったものに絞る。たいてい2〜3個しか残らない
- 残った機能だけで完結するか確認する。完結するなら、それがMVPの全機能
注意点として、連携先の多さが価値になっているSaaSは軽量化に向かない(そこが本体なので)。単機能で完結しているものを選ぶこと。
→ 💸 AI高額SaaS軽量化ツール出した案を捨てる基準 — 3つの質問
触媒を何回か引くと、今度は逆の問題が来る。案は出るが、どれを作るか決められない。ここで時間を溶かす人は多い。
判定は3問で足りる。全部通る案はそう多くないので、迷ったら順に当てていけばいい。
Q1. 自分が毎週使うか?
「使うと思う」ではなく「先週これがあったら使っていた」で答える。ここが No なら、完成後に自分で触らなくなる。個人開発ではそれが致命的になる。
Q2. 最初の10人をどう集めるか説明できるか?
「SNSで宣伝する」は説明になっていない。具体的な10人の顔か、その10人がすでに集まっている場所が言えるかどうか。言えないなら、作っても誰にも届かない。
Q3. 3ヶ月後も触っていそうか?
実装は速く終わっても、運用は続く。3ヶ月後の自分が「まだこれ触ってるな」と思えるか。テーマに飽きが来るタイプの案(流行り物・一発ネタ)はここで落ちる。
3問すべて Yes なら着手していい。 2問なら保留(💡 派生展開で切り口を変えると通ることがある)。1問以下なら捨てる。
捨てるのが惜しければ、案を残す場所を作っておくといい。アーカイブに置いておけば、前提が変わったときに拾い直せる。捨てるのと消すのは違う。
種がゼロでも始められる4つの入口
点検しても何も出てこなくても問題ない。制約の生成からAIに任せる入口が4つある。全部無料で、ログインも不要。03 で見たとおり入口の違いが出力の傾向を決めるので、1つ試してピンとこなければ別の入口に移るのが正解だ。
AIアイデアガチャ
4軸触媒54,000通りからAIがWebサービス案を3つ発案。幅を出したいときの基本形
AI組み合わせ検証
完全に違う2ジャンルの掛け算から1案を最高密度で生成。尖った案が欲しいとき
AI瞑想ブレインストーミング
漂う言葉を直感で2〜5個選ぶとAIが全部絡めて発案。自分の興味を混ぜたいとき
今週の時事アイデア
毎週月曜、AIがその朝のニュースから時事性あるWebサービス案を3つ。鮮度で勝負したいとき
他の人の案を眺めて温度を上げるのも有効。人気ランキングTOP100 や 新着一覧 は無料の発想の火種置き場だ。
よくある詰まり方と、その抜け方
「案は出るが、全部ありきたりに見える」
たいてい対象ユーザーが広すぎる。「タスク管理ツール」はありきたりだが、「訪問介護のヘルパーが移動中に片手で打てる記録ツール」はありきたりではない。案を捨てる前に、対象を10分の1に狭めてからもう一度見てほしい。ありきたりさの正体は、アイデアそのものではなく解像度の低さであることが多い。
「毎回、似たような案ばかりになる」
制約を自分で選んでいるのが原因。人は無意識に自分の得意分野と直近の関心に寄せるので、選択そのものが幅を殺す。相性の悪い組み合わせをあえて残すのが効く。「WebRTC × 家計簿 × 高齢者 × 音だけ」のような、噛み合わなさそうな触媒ほど未踏の形になる。
「作り始めると必ず飽きる」
案の選び方が「面白そう」基準になっている可能性が高い。面白さは着手時にピークを迎えて減衰するが、自分の不便は減衰しない。飽きが慢性化しているなら、次の1本は 種2(毎週やっている手作業) から選ぶといい。地味だが完走率が違う。
「もう誰かが作っている気がして手が止まる」
ほぼ確実に誰かは作っている。それでも成立するかは「その既存サービスを、自分の対象ユーザーが実際に使っているか」で決まる。存在していても届いていない・重すぎる・高すぎるなら、そこは空いている。
気になるなら、着手前に 🛡 模倣耐性判定 で「時間で深くなる要素があるか」を見ておくと判断が速い。
「思いついた」を「作る」に変える
案がひとつでも出たら、流れは決まっている。①派生で選択肢を増やす(💡 AI派生展開で1案→3案) → ②着手前チェック(🛡 模倣耐性と⚰ 失敗パターン) → ③仕様書化(📋 MVP仕様書を Claude Code / Cursor に貼る)。
実装フェーズの歩き方は、姉妹ガイド Claude Codeで何を作る? に詳しくまとめてある。仕様書に何を書くべきかもそちらで扱っている。
よくある質問
- Q. アイデアが思いつかないのは向いていないから?
- 違う。「何でもいい」が一番発想しにくい条件なだけ。制約を先に固定すれば発想は走り出す。制約の生成はAIに任せられる。
- Q. アイデアは出るが、どれも平凡でボツにしてしまう。
- 発想と評価を同時にやっているのが原因。出す時間と捨てる時間を分け、出す間は判定しない。平凡に見える案も、対象ユーザーを10分の1に狭めると急に成立することが多い。
- Q. AIに任せれば多様なアイデアが出る?
- 入力次第。種火の216件を分類すると、タグは約480種類に分散する一方で上位は「コミュニティ」「セキュリティ」「可視化」に集中している。約7割がニュース起点だからで、入力が偏れば出力も偏る。変えるべきはAIではなく入口。
- Q. 昔ボツにした案は捨てるべき?
- ボツの理由による。「実装が重い」「APIが無い」「運用が回らない」ならAI時代に前提が壊れているので復活の目がある。「需要が無かった」「興味を失った」なら前提は変わっていない。
- Q. 需要があるか分からないまま作り始めて大丈夫?
- 自分が毎週使うものならユーザー1人の需要は確定している。広く狙うならニッチ市場発見で空白を先に分析する。
- Q. 案が多すぎて選べない。
- 「自分が毎週使うか」「最初の10人をどう集めるか説明できるか」「3ヶ月後も触っていそうか」の3問で足りる。3つとも通る案は多くない。
- Q. 毎回似たようなアイデアばかりになる。
- 制約を自分で選んでいるから。乱択にして、相性の悪い組み合わせをあえて残す。違和感のある組み合わせほど未踏の形になる。
- Q. 案が出たあと何から始める?
- 模倣耐性と失敗パターンを確認 → MVP仕様書 → Claude Code / Cursor に貼って実装。
SUMMARY
- 主題
- 「個人開発を始めたいが作りたいものがない」状態の原因と、その解き方
- 「思いつかない」の4類型
- A: 制約がない(本当に白紙) / B: 評価が早すぎる(浮かんだ瞬間に自分で潰す) / C: 完成形から考えている(収益化やスケールを先に考える) / D: 他人の基準で測っている(話題性を求める)。それぞれ対処が異なる
- 解法(触媒発想)
- 制約を先に置く。技術・ジャンル・対象ユーザー・ひねりの4軸を乱択で固定し、「その条件で成立する Webサービス は何か」に問いを置き換える。手順は ①4軸を乱択 ②問いを置換 ③20秒で判定して捨てる ④残った案だけ深掘り ⑤着手前に死角を潰す
- 触媒プールの規模
- 技術20 × ジャンル15 × 対象12 × ひねり15 = 54,000通り
- 一次観測(2026-08-02時点)
- 種火が公開している AI 生成 Webサービス案 216 件のタグは約480種類に分散するが、上位は コミュニティ32件 / セキュリティ23件 / AI22件 / 可視化16件 に集中。約7割がニュースを入力とした案であることが偏りの原因。結論として、出力の多様性を決めるのは AI の性能ではなく入力する制約の設計である
- 自分の中に眠る種の掘り起こし方
- ① 過去にボツにした案を再評価する(ボツ理由が「実装が重い/APIが無い/運用が回らない」なら前提が壊れているので復活の目がある。「需要が無かった/興味を失った」なら変わっていない) ② 自分が毎週やっている手作業(頻度×所要時間×イライラ度でスコア化) ③ 高すぎると感じている SaaS(先月実際に使った機能だけに絞る。連携の多さが価値のSaaSは軽量化に向かない)
- 案を捨てる基準
- 3問すべて Yes なら着手 — ① 自分が毎週使うか ② 最初の10人をどう集めるか説明できるか ③ 3ヶ月後も触っていそうか。2問なら保留、1問以下なら捨てる
- よくある詰まりと対処
- 「ありきたりに見える」→ 対象ユーザーを10分の1に狭める / 「毎回似た案になる」→ 制約を乱択にして相性の悪い組み合わせを残す / 「作り始めると飽きる」→ 面白さ基準ではなく自分の不便から選ぶ / 「もう誰かが作っている」→ 既存が対象ユーザーに実際に届いているかで判断する
- 案が出たあとの流れ
- 派生で選択肢を増やす → 模倣耐性と失敗パターンを確認 → MVP仕様書 → Claude Code / Cursor で実装
- 対象読者
- 個人開発者・一人法人。スコープは Webサービス に限定、ネイティブアプリ・ハードウェアは対象外
- 関連ガイド
- 実装フェーズの歩き方: https://idea.lb-product.com/guide/claude-code
白紙に向かうのは、今日でやめよう。
🎲 まず1回、AIに引かせてみる