Claude Codeで、何を作る?
AI自動コーディングで、Webサービスの実装は一晩で終わるようになった。
残った問題はひとつ — 「で、何を作る?」。このガイドはその問いに答える。
何が速くなって、何が速くなっていないか
Claude Code や Cursor を使えば、CRUD付きのWebサービスは本当に一晩で動く。数年前なら1〜2ヶ月かかっていた個人開発の実装フェーズは、いまボトルネックではなくなった。
ただし、速くなったのは全工程ではない。個人開発を工程で割ると、こうなっている。
| 工程 | AIで速くなったか | 実感 |
|---|---|---|
| 発案 | ほぼ変わらない | 何を作るかは自分で決めるしかない。ここで一番止まる |
| 設計・要件定義 | 補助はできる | 叩き台は出せるが、何を捨てるかの判断は人間の仕事 |
| 実装 | 激変した | 1〜2ヶ月 → 一晩。もはや律速ではない |
| デバッグ | 速くなった | ただし仕様が曖昧だと、直すたびに別の場所が壊れる |
| 集客・運用 | ほぼ変わらない | 作る速度だけ上がった結果、ここの詰まりが目立つようになった |
つまり、真ん中だけが極端に速くなって、前後が取り残されている。実装が1ヶ月かかっていた頃は「作りたいものが無い」と感じる暇がなかったが、今夜から作れる状態になった途端、多くの個人開発者が同じ場所で止まる。作りたいものが決まっていない。あるいは決めたはずの案が「これ、作る意味あるのか?」と揺らぐ。
いまいちばん練習すべきスキルはコーディングではなく発案と、その案を絞り切ることだ。そして両方とも、根性やセンスではなく型で出せる。
「Webサービス」に絞ると勝ち筋が見える
何を作るかの前に、どこで作るかを固定しよう。おすすめは迷わず Webサービス(SaaS / Webアプリ / PWA / API / ブラウザ拡張)だ。理由は3つ。
- AIコーディングが最も効く領域 — 生成されたコードがほぼそのまま本番で動く。ストア審査もビルド地獄もない
- 試行回数を最大化できる — URLひとつで公開・共有・撤退ができる。個人開発は当てるゲームではなく試行回数のゲーム
- 運用が一人分のサイズに収まる — レンタルサーバー1台と月数百円で回る構成が現実的に組める
ネイティブアプリやハードウェアが悪いわけではない。ただ、実装以外の摩擦が個人開発には重い。ストア審査は数日〜数週間かかり、リジェクトされれば作り直しが要る。ハードは在庫と物流が乗る。どちらも「一晩で作って翌朝に公開する」というAI時代の速度が活きない。
最初の1本は摩擦の少ない土俵で回して、「公開して反応を見る」という一周を体で覚えるのが先だ。土俵を移すのはその後でいい。
アイデアの見つけ方 - 5つの型
「ゼロから自由に考える」は一番むずかしい。先に制約や種を置いて、そこから発想するのが型だ。5つ挙げる。どれも種火のAIツールでそのまま試せる(全部無料)。
型1: 触媒をぶつける(強制発想)
技術×ジャンル×対象×ひねりの4軸をランダムに固定し、その制約下で成立する案を考える。制約があるほど発想は走る。自分で考えず、AIに丸ごと発案させるのが最速。
向いている人: 本当に白紙の人 / つまずきどころ: 出てきた案を丁寧に評価しすぎること。1案20秒で捨てて次を引くくらいでいい
→ 🎲 AIアイデアガチャ(54,000通り) · → 🎰 組み合わせ検証(2ジャンル掛け合わせ)型2: 高すぎるSaaSを軽量化する
多くのユーザーは機能の1割しか使っていない。その1割だけを切り出した軽量版は、個人開発の定番の勝ち筋。使っていて「高いな」と思うSaaS名を挙げるところから始まる。
向いている人: 業務でSaaSを日常的に使っている人 / つまずきどころ: 連携先の多さが価値になっているSaaSを選ぶこと。そこが本体なので軽量版にすると何も残らない。単機能で完結しているものを選ぶ
→ 💸 AI高額SaaS軽量化ツール型3: ニッチの困りごとを掘る
「業界×職種×困りごと」の3点が決まると、大手が採算で参入しない空白が見える。ニッチすぎるくらいでちょうどいい — 個人開発は100万人ではなく100人に深く刺されば回る。
向いている人: 特定業界の経験がある人 / つまずきどころ: 自分がその業界にいないと困りごとの解像度が上がらないこと。知らない業界を狙うなら、最初の10人に直接話を聞ける当てがあるかを先に確認する
→ 🔎 AIニッチ市場発見ツール型4: 目の前の手作業をWeb化する
自分や職場の Excel・紙・メールで回っている業務は、それ自体が検証済みの需要。ユーザー1人目が確定している案は、モチベーションも要件も崩れない。完走率がいちばん高い型。
向いている人: 過去に何度も途中で飽きた人 / つまずきどころ: 月1回以下の作業を選ぶこと。頻度が低いとWeb化しても結局Excelに戻る。週1回以上を条件にする
→ ✋ AI業務Webシステム化ツール型5: 時事から着想する
制度変更・値上げ・新技術のニュースは「昨日まで無かった不便」の供給源。鮮度が武器になるぶん、実装の速いAI時代と相性がいい。
向いている人: 公開までのスピードを出せる人 / つまずきどころ: 話題が消えると同時に需要も消えること。時事は入口に使い、ニュースが終わっても残る不便に着地させる
→ 📰 今週の時事アイデア(毎週月曜に自動生成)「そもそも作りたいものが浮かばない」段階なら、姉妹ガイド 作りたいものがない個人開発者へ から読むのがおすすめ。詰まっている場所の見分け方と、案を捨てる基準を扱っている。
最初の1本の選び方と、避けるべき4つの初手
型で案が出たら、次は「どれを最初に作るか」だ。AIで実装が速くなったとはいえ、速くならなかった部分に地雷がある。次の4つに当てはまる案は、初手としては避けたほうがいい。
避ける1: 認証・アカウント連携が価値の中心にある案
外部サービスとの連携が売りの案は、実装よりも申請・審査・鍵の管理に時間を取られる。コードは書けても公開できない期間が発生する。まずは連携ゼロで完結する案を選ぶ。
避ける2: リアルタイム同期が前提の案
同時編集・チャット・対戦などは、動くところまでは速いが、壊れ方が難しい。競合状態や再接続の扱いはデバッグが重く、個人開発の最初の1本で踏むには早い。
避ける3: 決済が無いと成立しない案
決済導入には審査と法務まわりの記載が付いてくる。お金を取る前に「使われるか」を先に確かめるほうが順番として正しい。無料で出して、使われてから課金を足せばいい。
避ける4: コンテンツを大量に用意しないと成り立たない案
まとめサイト・データベース型・マッチング型は、コードが完成しても中身が空だと機能しない。実装が速くなってもここは速くならない。初期データを自動で埋められる設計かを先に確認する。
逆に、最初の1本に向いている条件
- ログイン不要でも成立する — 触ってもらうまでの摩擦がゼロになる
- 1画面で完結する — 画面遷移が増えるほど未完成のまま放置される確率が上がる
- 自分が今週使う — 完成した瞬間に自分が最初のユーザーになる
- データが消えても致命傷にならない — バックアップや整合性の設計に時間を取られない
この4条件を満たす案は、週末で公開まで到達できる。まず1本、公開して反応を見る一周を終わらせることのほうが、大きい案を1本抱えるより遥かに学びが多い。
作る前に潰しておく、2つの死角
案が出たら、すぐコードを書きたくなる。その前に2つだけ確認すると、数週間の無駄打ちを防げる。
死角1: それ、すぐ真似されない?
実装が安い時代は、模倣も同じだけ安い。あなたが一晩で作れるものは、他人も一晩で作れる。だから問うべきは「作れるか」ではなく「時間が経つほど深くなる要素があるか」だ。
堀になりうるのは、たとえばこういうもの:
- データの蓄積 — 使われるほど価値が増す(後発は同じデータを持てない)
- ワークフローへの食い込み — 業務に組み込まれると乗り換えコストが跳ね上がる
- コミュニティ — 人が集まっている場所自体が価値になる
- 参入の面倒さ — 泥臭い初期投入や関係構築が要る領域は、そもそも誰も来ない
逆に「UIがきれい」「機能が多い」は堀にならない。どちらも一晩で並ばれる。🛡 AI模倣耐性判定 が5軸で辛口に診断してくれるので、着手前に一度通しておくといい。
なお、実際に16件を診断してみると5軸80スコアのうち4以上が1つも出なかった。堀は選ぶものではなく後から積むものだという話は Webサービスの差別化と参入障壁 に実データつきで書いた。
死角2: その領域の「典型的な失敗の型」を知っているか?
どのジャンルにも、先人が同じ理由でつまずいたパターンがある。マッチング型なら供給側が先に離脱する、ツール型なら本家に同機能が入る、コミュニティ型なら初期の空席期間を越えられない — といった具合に、失敗は驚くほど型どおりだ。
着手前に ⚰ AI失敗事例リサーチ で業界×ジャンルの失敗パターンを引いておくと、回避設計が最初から織り込める。作ってから気づくと、作り直しになる。
仕様書にしてから貼る — 何を書くか
なぜ口頭のプロンプトだと崩れるのか
「タスク管理ツールを作って」とだけ書くと、AIは決まっていない部分を推測で埋める。タスクに期限はあるのか、担当者は付くのか、完了したタスクは消えるのか — どれも決めていないので、その場の自然な解釈で実装される。
問題は、推測が毎回変わることだ。会話を重ねて修正を頼むたびに、前回とは違う前提で書かれる。結果、機能は増えているのに全体の筋が通らないコードが積み上がる。これは能力の問題ではなく、決定が渡されていないことの必然的な帰結だ。
仕様書の価値は「丁寧さ」ではない。推測の余地を先に潰しておくことにある。とくに WON'T(今回は作らない) を明記できるかどうかが効く。書かないと、機能は際限なく膨らむ。
仕様書に入れる項目
| 項目 | なぜ要るか |
|---|---|
| サービス概要 | 1段落で言えないなら、まだ決まっていない |
| MUST / SHOULD / WON'T | スコープの境界。WON'T が最重要 — 作らないものを書かないと膨らむ |
| 削る機能と、削る理由 | 理由を書くと、後で自分が蒸し返さなくなる |
| 画面一覧と遷移 | 画面数が想定より多ければ、その時点でスコープ過大のサイン |
| データモデル | 後から変えると全部に波及する。ここだけは先に固める |
| 主要APIエンドポイント | 認証の要否も併記。画面とデータの間の辻褄が合っているかの検算になる |
| 技術スタック | 使うホスティングで動く構成に限定しないと、動かないコードが出てくる |
| 外部サービスの想定コスト | 個人開発で月額が想定を超えると、それだけで畳むことになる |
| 実装ステップ | 1〜2時間粒度に割る。1ステップごとに動作確認できる単位にする |
渡し方
仕様書ができたら、全文を最初に渡してから、実装ステップ単位で進めるのがいい。「1のステップだけやって」と区切り、動作を確認してから次に行く。まとめて全部を頼むと、途中で仕様から逸れても気づけない。
仕様書づくり自体もAIに任せられる。アイデアの概要を入れると、上の項目を埋めたそのまま貼れるMarkdown仕様書が出てくる(実装ステップとチェックボックス付き)。
仕様書の中身、とくに「作らないもの」の決め方は専用ガイドで詳しく扱っている → MVP仕様書の書き方
動いたあと、公開して終わりにしないために
実装が速くなったことの副作用として、「作ったけど誰にも使われていないもの」が手元に溜まりやすくなった。一晩で作れるということは、一晩で忘れられるということでもある。
最低限やっておくと違うのは、次の3つくらいだ。
- 自分が使う導線に置く — ブックマークバーなり、毎日開くページのリンクなり。自分が使わないものは誰も使わない
- 最初の10人に直接見せる — 不特定多数への告知より、顔の見える10人に見せたほうが情報量が多い
- 畳む条件を先に決めておく — 「3ヶ月使われなかったら止める」と決めておくと、惰性の維持コストに引きずられない
そして、うまくいかなかった案は捨てずに残しておくといい。ボツにした理由が「実装が重い」「APIが無い」だったなら、その前提はまた変わる。⚱ AI供養箱 はそのための場所だ。
よくある質問
- Q. Claude Code で最初に作るものは何がいい?
- 自分が毎週触る小さな不便を消すWebサービス。ユーザー1人目が自分なので要件がブレず、実利用のフィードバックが即得られる。浮かばなければ上の5つの型でAIに発案させる。
- Q. 最初の1本として避けたほうがいいテーマは?
- ①外部サービス連携・認証が価値の中心 ②リアルタイム同期が前提 ③決済が無いと成立しない ④コンテンツを大量に用意しないと成り立たない。どれも実装の速さが活きず、コードが書けても完成しない部分が残る。
- Q. アイデアが平凡すぎる気がする。それでも作るべき?
- 平凡かどうかより「誰の何の不便が消えるか」が明確かで判断。心配なら模倣耐性を先に診断して、堀の作れる切り口に寄せる。
- Q. なぜネイティブアプリでなくWebサービス?
- AI自動コーディングが最も効き、審査なし・即公開で試行回数を最大化できるから。ストア審査やビルドまわりの摩擦は実装が速くなっても消えない。
- Q. 口頭でプロンプトを書くのと、仕様書を渡すのはどう違う?
- 決定の量が違う。口頭だと決まっていない部分をAIが推測で埋め、その推測は毎回変わるので、修正を重ねるほど筋が通らなくなる。仕様書は推測の余地を先に潰す文書。
- Q. MVP仕様書には何を書けばいい?
- サービス概要 / MUST・SHOULD・WON'T / 削る機能と理由 / 画面一覧と遷移 / データモデル / 主要APIエンドポイント / 技術スタック / 想定コスト / 1〜2時間粒度の実装ステップ。特に WON'T が重要。
- Q. AIがコードを書くなら設計は要らないのでは?
- 逆。実装が安くなったぶん、何を作らないかの判断の価値が上がった。設計なしで生成を重ねると、動くが筋の通らないコードが積み上がり、直すコストのほうが高くつく。
- Q. 決まったら次は?
- MVP仕様書を作って Claude Code / Cursor に貼る。仕様書もAIで自動作成できる(上の 06 参照)。
SUMMARY
- 主題
- AI自動コーディング時代(Claude Code / Cursor)の個人開発者が、作るべき Webサービス のアイデアをどう見つけ、どう実装に渡すか
- 前提
- 速くなったのは実装とデバッグだけ。発案と集客・運用はほぼ変わっておらず、設計は補助にとどまる。ボトルネックは「どう作るか」から「何を作るか」「何を作らないか」へ移った
- 土俵を Webサービス に絞る理由
- ① AIコーディングが最も効く領域で生成コードがほぼそのまま動く ② URLひとつで公開・共有・撤退でき試行回数を最大化できる ③ 運用が個人サイズに収まる。ネイティブアプリ・ハードウェアは実装以外の摩擦(審査・在庫・物流)が重く、AI時代の速度が活きない
- アイデアを見つける5つの型
- ① 触媒を掛け合わせる(技術×ジャンル×対象×ひねり) ② 高額SaaSを軽量化する(単機能で完結するものを選ぶ。連携の多さが価値のSaaSは不向き) ③ ニッチの空白を突く(業界×職種×困りごと) ④ 自分の手作業をWebシステム化する(週1回以上の頻度が条件。完走率が最も高い) ⑤ 時事から着想する(ニュースが終わっても残る不便に着地させる)
- 最初の1本で避けるべき4つの初手
- ① 認証・外部サービス連携が価値の中心(申請と審査で公開できない期間が出る) ② リアルタイム同期が前提(競合状態と再接続のデバッグが重い) ③ 決済が無いと成立しない(審査が付く。使われるか先に確かめるべき) ④ コンテンツの大量投入が前提(コードが完成しても中身が空だと機能しない)
- 最初の1本に向いている条件
- ログイン不要で成立する / 1画面で完結する / 自分が今週使う / データが消えても致命傷にならない。この4条件を満たす案は週末で公開まで到達できる
- 着手前に潰すべき2つの死角
- ① 模倣耐性 — 実装が安い時代は模倣も安いので、時間が経つほど深くなる要素(データの蓄積 / ワークフローへの食い込み / コミュニティ / 参入の面倒さ)があるかを問う。UIの美しさや機能の多さは堀にならない ② その領域の典型的な失敗パターン — 失敗は型どおりに起きるので、着手前に調べて回避設計を織り込む
- 仕様書が必要な理由
- 口頭の要望には未決定部分が多く、AIはそこを推測で埋める。推測は毎回変わるため、修正を重ねるほど全体の筋が通らなくなる。仕様書の価値は丁寧さではなく、推測の余地を先に潰すこと。とくに WON'T(今回は作らないもの)の明記が効く
- MVP仕様書に入れる項目
- サービス概要 / MUST・SHOULD・WON'T / 削る機能と削る理由 / 画面一覧と遷移 / データモデル / 主要APIエンドポイント(認証要否込み) / 技術スタック / 外部サービスの想定コスト / 1〜2時間粒度の実装ステップ
- 渡し方
- 仕様書の全文を先に渡し、そのあと実装ステップ単位で区切って進める。1ステップごとに動作確認する。まとめて頼むと仕様から逸れても気づけない
- 公開後にやること
- 自分が使う導線に置く / 最初の10人に直接見せる / 畳む条件を先に決めておく。うまくいかなかった案は捨てずに残す(ボツ理由が実装コストやAPIの不在なら、前提はまた変わる)
- 対象読者
- 個人開発者・一人法人。スコープは Webサービス(Webアプリ / SaaS / PWA / ブラウザ拡張)に限定、ネイティブアプリ・ハードウェアは対象外
- 関連ガイド
- そもそも作りたいものが浮かばない段階の人向け: https://idea.lb-product.com/guide/no-idea
「何を作るか」で止まる時間は、今日で終わり。
🔥 AIに発案を丸投げしてみる