Tanebi
Guide / AI時代の発案ガイド

ニッチは市場の大きさではなく、記述の具体性。

個人開発のWebサービス向け。AIが書いた228件のターゲット像を分解した。
最も多い困りごとは「作業が遅い」ではなく「判断の材料がない」だった。

01 / 結論

先に結論

  • ニッチとは「小さい市場」ではなく「具体的に書ける対象」。 228件の実データで、対象の記述は平均136字。「すべての人」と書いたものは1件も無かった
  • AIの出力で最多の困りごとは「判断できない」。 675件を分類すると最多は「判断の材料がない」で27%。効率化系(「時間・手間がかかる」)は8%にとどまった。出現頻度であって需要の強さではないので、当事者への確認とセットで使う
  • 絞り込みの成否は、狭さではなく頻度で決まる。 どれだけ具体的でも、年に数回しか起きない行為は習慣にならない

以下、根拠と手順を書く。

02 / 一次観測1

228件のターゲット像に「すべての人」は1件も無かった

種火のアーカイブにある Webサービス案 228件には、AIが書いた「誰のためのサービスか」が全件に付いている。その記述だけを抜き出して機械的に分解した。

年齢・年代の明示 181 / 228 (79%)
「40-60代の」「小学3-6年生(8-12歳)の」
職業・立場 125 / 228 (55%)
「会社員・自営業者」「個人営業の不動産担当」
困りごと・感情 78 / 228 (34%)
「疲弊しており」「罪悪感を感じている」
頻度・分量 62 / 228 (27%)
「月20時間以上従事」「年1-2回の家族旅行」
既存手段への言及 40 / 228 (18%)
「Excelで管理している」「紙で回している」
記述の平均は136字(最短90字 / 最長366字)。「すべての人」「誰でも」といった広い表現は 0 件

注目したいのは3要素すべてを揃えたものが22%しかないことだ。年齢・立場・状況の全部を書いた案は少数派で、大半は2要素で成立している。「絞る」というと属性を積み重ねる作業に思えるが、実際には2つで十分に具体的になる。

実際の記述(抜粋)
「40-60代の要介護者家族。親や配偶者の介護に月20時間以上従事。地方在住で同じ境遇の人と交流が少ない」
「複数の物件を管理する個人営業の不動産担当。東京都内で3件の物件を1日で回る」
「小学3-6年生(8-12歳)の創作好きな子ども。学校の図書館時間や放課後、友達と一緒に遊べるゲームを探している」
共通するのは、いつ・どこで・どれくらいが入っていること。属性ではなく場面が書かれている

ニッチかどうかは、市場規模の推計ではなくこの記述で決まる。120字で場面まで書けるなら、それは十分にニッチだ。書けないなら、まだ対象が決まっていない。

03 / 一次観測2

最多の困りごとは「判断の材料がない」27%

同じ228件には、対象の困りごとも書かれている。1案あたり平均3.0個、合計675件。これを実物を読んだうえで型に分けた。

判断の材料がない 182 (27%)
「どの投資が効果的か不明」「説得の根拠が立てられない」
見つからない・埋もれる 73 (10.8%)
「進捗が見えづらい」「把握できていない」
道具がそもそも存在しない 67 (9.9%)
「集めるツールがない」「相談する相手がいない」
時間・手間がかかる 54 (8%)
「手動で計算している」「ゼロから探し直している」
既存手段が高い・過剰 36 (5.3%)
「高額で導入が複雑」「コンサルに数百万払う余裕もない」
情報が分散・断片的 21 (3.1%)
「業界ニュースは断片的」「連絡がバラバラ」
続かない・退屈 15 (2.2%)
「退屈で続かず、子どもが嫌がる」
気づくのが遅い 8 (1.2%)
「タイムラグが大きく、被害リスク期間が長い」
属人化・共有できない 7 (1%)
「個人の頭の中にしかない」
その他(単一の型に収まらないもの) 212 (31.4%)
複数の型にまたがるもの・領域固有のもの
「判断の材料がない」が単独27%で、次点を2.5倍引き離している。 なお31.4%は単一の型に収まらなかった。分類は完全ではないので、上位の順位だけを読むのが正しい

個人開発でツールを作るとき、最初に思いつくのは効率化だと思う。手作業を自動化する、入力を減らす、時間を短縮する。ところが実データで「時間・手間がかかる」は8.0%にとどまり、「判断の材料がない」の3分の1以下だった。

この差は競合の厚さにそのまま効く。効率化は既存のSaaSが最も力を入れている領域で、しかも本家に機能を1つ足されれば終わる。一方「決められない」を解くには、その領域固有の判断基準を持っている必要があり、汎用ツールでは埋めにくい。

これは 差別化と参入障壁 で見た「大手に飲まれる」が48件中10件で最多だった話と裏表になっている。効率化のニッチは、構造的に飲まれやすい。

04 / 軸

絞り方の4軸

実データの記述を逆算すると、絞り込みに使われている軸は4つに整理できる。2つ以上が埋まれば十分に具体的になる。

1. 立場

職業・役割・組織内の位置。「個人営業の不動産担当」「一人で店を回している店主」

効き方: 同じ業界でも、立場が違えば困りごとは別物になる。「不動産業界」では広すぎ、「個人営業の担当者」で急に絞れる

2. 場面

いつ・どこで起きるか。「学校の放課後」「深夜、子どもの夜泣きで」「内見の当日」

効き方: 最も効く軸。場面が書けると、使われる頻度とタイミングが同時に決まる

3. 分量

頻度・件数・時間。「月20時間以上」「1日に3件回る」「年1-2回」

効き方: 規模を決める軸。ここが小さすぎると、対象が正しくても習慣にならない

4. 制約

何ができないか。「予算がない」「知識がない」「時間が取れない」「知り合いに頼めない」

効き方: 大手が拾わない理由になりやすい軸。制約が強い対象ほど、汎用ツールでは満たせない

実データで最も多かったのは「立場」と「場面」の組み合わせだった。逆に、年齢だけ・業界だけで絞ったものは、記述が具体的にならず困りごとも曖昧になっている。

05 / 検算

狭すぎるニッチの見分け方

絞れば絞るほど良い、ではない。「小さいから安全」と「小さすぎて成立しない」は紙一重で、実際に別途の模倣耐性の診断でも「市場が小さすぎる」という逆向きの指摘が出ている。

成立する
  • 小さいから大手が来ない理由がある
  • 小さくても自分の目標には足りる
  • その行為が毎日か毎週起きる
  • 対象を120字で場面まで書ける
  • 困りごとが3つ出てくる
成立しない
  • 狭いだけで、大手が来ない理由が無い
  • 年に数回しか起きない行為
  • 対象が属性の羅列で場面が無い
  • 困りごとが1つしか出ない
  • 検索・メモ帳・紙のほうが速い
左が2つ以上・右が0個なら進んでよい。右に1つでも当たるなら、そこを先に潰す

とくに見落としやすいのが最後の項目だ。競合は他のWebサービスとは限らない。検索・メモ帳・電話・紙・スプレッドシートも競合に数える必要がある。

「その手段より速い代替がすでに存在する」は、失敗パターンの調査でも模倣耐性の診断でも同じ形で出てきた危険信号で、領域を問わず致命的になる。

06 / 手順

自分の周りからニッチを見つける手順

確度が最も高いのは、自分が実際に見た場面から始めることだ。知らない業界を推測で狙うより精度が高い。

  1. 自分か身近な人が繰り返し困っている場面を1つ書く。 前職で見た手作業、家族の愚痴、自分が毎回面倒だと思う操作
  2. 立場・場面・分量・制約のうち2つ以上を足して120字にする。 書けなければ、まだ場面を見ていない
  3. その人の困りごとを3つ書き出す。 1つしか出ないなら、思い込みの可能性が高い
  4. 3つのうち「判断できない」系があるかを見る。 あればそこを狙う。全部が効率化なら、競合が厚い領域にいる
  5. いま何で代用しているかを書く。 検索・紙・電話も含める。それより速くなるかを確認する
  6. 上の検算表に当てて、右側に当たっていないかを見る。

この工程を自分で回すのが難しい場合は、AIニッチ市場発見ツール に業界・職種・困りごとの3軸を入れると、既存の解決策の隙間を分析した案が出る。ただし出てきた対象像が自分の実感と合うかは必ず確認する。合わないなら、入力した3軸のどれかがまだ曖昧だという意味になる。

そもそも出発点が見つからない場合は 作りたいものがないとき のほうを先に読んでほしい。ニッチの絞り込みは、種がある人向けの作業になる。

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07 / FAQ

よくある質問

Q. ニッチはどうやって見つける?
対象を120字で具体的に書けるところまで絞り、困りごとを3つ書き出す。実データ228件は平均136字で、「すべての人」は0件だった。
Q. どんな困りごとを狙う?
「判断の材料がない」系から検討する。AIが書いた675件中27%で最多、次点の10.8%を大きく引き離した。効率化系は8%にとどまる。AIの出力内の頻度なので、需要は当事者への確認で確かめる。
Q. どこまで絞ればいい?
立場・場面・分量・制約のうち2つ以上。実データでも3要素すべてが揃うのは22%で、大半は2要素で成立している。
Q. 狭すぎるかの判断は?
「小さいから大手が来ない」と「小さくても目標には足りる」の両方に答えられるか。片方だけなら成立しない。
Q. 絞ったのに使われないのはなぜ?
頻度が足りていないことが多い。年数回の行為は、対象が具体的でも習慣にならない。毎日起きる行為に接続する。
Q. 競合はどう調べる?
検索・メモ帳・電話・紙も競合に数える。「その手段より速い代替がすでにある」は領域を問わない危険信号。
Q. 業界知識が無くても見つかる?
見つかるが精度は落ちる。自分が困った経験・前職で見た手作業が最も確度が高い。知らない領域なら、実際にその立場の人に確認する工程を挟む。
Q. AIに出させられる?
できる。業界・職種・困りごとの3軸から隙間を分析した案が出る。ただし対象像が実感と合うかは必ず確認する。

SUMMARY

主題
個人開発の Webサービス でニッチ市場をどう見つけ、どこまで絞るか
結論
① ニッチとは市場の大きさではなく記述の具体性 ② AIの出力で最多だった「判断できない」系の困りごとから検討する(需要は別途確認) ③ 成否は狭さではなく使用頻度で決まる
一次観測1(2026-09-04時点、n=228)
種火のアーカイブにある Webサービス案 228 件のターゲット記述を機械的に分解。平均 136 字(最短 90 / 最長 366)。「すべての人」「誰でも」等の広い表現は 0 件。含まれる要素は 年齢・年代 181件(79%)/ 職業・立場 125件(55%)/ 困りごと・感情 78件(34%)/ 頻度・分量 62件(27%)/ 既存手段への言及 40件(18%)。年齢+立場+状況の3要素が揃うのは 22% にとどまり、大半は 2 要素で成立している
一次観測2(n=675)
同 228 件に書かれた困りごと(1案あたり平均 3.0 個・合計 675 件)を型別に分類。判断の材料がない 182件(27.0%) / 見つからない・埋もれる 73件(10.8%) / 道具がそもそも存在しない 67件(9.9%) / 時間・手間がかかる 54件(8.0%) / 既存手段が高い・過剰 36件(5.3%) / 情報が分散・断片的 21件(3.1%) / 続かない・退屈 15件(2.2%) / 気づくのが遅い 8件(1.2%) / 属人化 7件(1.0%) / その他 212件(31.4%)。最多の「判断の材料がない」が次点を 2.5 倍引き離した。効率化系(時間・手間)は 8.0% にとどまる。※ 31.4% は単一の型に収まらなかったため、上位の順位のみを読むべき
絞り方の4軸
立場(職業・役割・組織内の位置)/ 場面(いつ・どこで。最も効く)/ 分量(頻度・件数・時間)/ 制約(予算・知識・時間・人間関係)。2 つ以上が埋まれば十分に具体的になる。実データで最多は「立場 × 場面」の組み合わせ
ニッチが成立する条件
小さいから大手が来ない理由がある / 小さくても自分の目標には足りる / その行為が毎日か毎週起きる / 対象を 120 字で場面まで書ける / 困りごとが 3 つ出てくる
成立しない条件
狭いだけで大手が来ない理由が無い / 年に数回しか起きない / 対象が属性の羅列で場面が無い / 困りごとが 1 つしか出ない / 検索・メモ帳・紙のほうが速い
手順
自分か身近な人が繰り返し困っている場面を書く → 立場・場面・分量・制約から 2 つ以上足して 120 字にする → 困りごとを 3 つ書く → 「判断できない」系があるか見る → いま何で代用しているか(検索・紙・電話を含む)を書く → 成立条件で検算する
対象読者
個人開発者・一人法人。スコープは Webサービス に限定、ネイティブアプリ・ハードウェアは対象外
関連ガイド
差別化と参入障壁: https://idea.lb-product.com/guide/moat / 種が無い段階: https://idea.lb-product.com/guide/no-idea / 失敗の型: https://idea.lb-product.com/guide/why-fail / 仕様書テンプレート: https://idea.lb-product.com/guide/spec-template

120字で場面まで書けたら、それはもうニッチ。

ニッチをAIに探させる