Tanebi
Guide / AI時代の発案ガイド

面白い案ほど、作り終わらない。

個人開発のWebサービス案 228 件のAI採点を統計的に調べた。
Wow度と実装難度は連動する。一方で実用性は、AIの採点の中ではどの軸ともほぼ相関しなかった。

01 / 結論

先に結論 — 見る順番を変えるだけでいい

アイデアが複数あるとき、多くの人は面白い順に見る。だが 228 件の実測では、それが自動的に「重い案」を選ぶ動きになっていた。

  • Wow度と実装難度は連動する(r = +0.46)。意外性はコストを伴う
  • AIの採点では、実用性はどの軸ともほぼ無相関(個人開発向き度と r = +0.03、Wow度と r = -0.02)。他の軸とトレードオフになりにくい
  • だから見る順番は 実用性 → 実装難度 → Wow度。Wow度を先に見ると、難度の高い案が勝手に上に来る

以下、根拠を出す。

02 / 一次観測

228件の相関を取る

種火のアーカイブにある Webサービス案 228 件には、AI が付けた4つの指標が全件そろっている。Wow度 / 実用性 / 実装難度(各1〜5)と、深掘り分析での個人開発向き度(1〜5)だ。この4つの相関係数を取った。

組み合わせ 相関 r 読み方
Wow度 × 実装難度 +0.46 強く連動
実装難度 × 個人開発向き度 −0.37 難しいほど向かない
Wow度 × 個人開発向き度 −0.25 面白いほど向かない
実用性 × 個人開発向き度 +0.03 無関係
Wow度 × 実用性 −0.02 無関係
上3つは n=228 で統計的に十分な強さ(|t| = 3.8〜7.7)。下2つは |t| が 0.4 以下で、関係が無いと読むのが正しい

相関係数は「片方が上がるともう片方も上がるか」を −1〜+1 で表す。+0.46 は、社会科学の実データとしてはかなりはっきりした関係で、偶然でこの値が出る確率は極めて低い。

03 / トレードオフ

Wow度は「コストのかかる指標」だった

Wow度ごとに平均を出すと、関係が階段状に見える。

Wow度 2 n = 7
実装難度 1.86
個人開発向き 4.00
Wow度 3 n = 81
実装難度 2.26
個人開発向き 3.81
Wow度 4 n = 126
実装難度 2.77
個人開発向き 3.56
Wow度 5 n = 14
実装難度 3.21
個人開発向き 3.57
Wow度が 2 → 5 に上がるあいだに、実装難度は 1.86 → 3.21 に上がり、個人開発向き度は 4.00 → 3.57 に下がる

これは直感に反しない。意外性は「まだ誰もやっていないこと」から生まれ、誰もやっていない理由はたいてい、難しいか面倒だからだ。

問題は、候補を眺めるときに最初に目を引くのが Wow度だということ。面白い順に並べると、実装難度の高い順に並べているのとほぼ同じ操作になってしまう。

04 / 例外

実用性だけがトレードオフの外にある

4指標のうち、実用性だけがどの軸とも相関を示さなかった。個人開発向き度とは r = +0.03、Wow度とは r = −0.02。どちらも相関はほぼ無いと読む水準だ。ただし、これはAIが付けた採点どうしの関係で、実際に使われるかどうかを測ったものではない。高い実用性スコアも、利用者に確かめるまでは予想にすぎない。

全 228 件 199/228 (87%)
Wow度が高い群(4以上) 118/140 (84%)
個人開発向き度が高い群(4以上) 139/155 (90%)
両方高い群 70/81 (86%)
実用性 4 以上の割合は、どの群でも 84〜90% でほとんど動かない

つまり、実用性を上げても他の何かが下がるわけではない。面白さを削る必要も、作りやすさを諦める必要もない。

これが「実用性で最初に足切りする」根拠になる。他の軸とぶつからない指標なので、先に切っても失うものがない。逆に Wow度で先に切ると、そのぶん作りやすさを捨てることになる。

05 / 但し書き

では両立はしないのか — 3件に1件はしている

ここは誤読しやすいので、正確に書いておく。相関があるからといって「両立しない」わけではない。

実測
81 件
Wow度4以上 かつ 個人開発向き度4以上
(228件の36%)
2つが独立だった場合の期待値
95 件
実測は期待値の 0.85 倍
やや起きにくい程度
「両立しにくい」は正しいが、「両立しない」は言い過ぎ。3件に1件は両方満たしている

実用性まで含めて3条件すべてが4以上の案も、228件中 70件(31%)ある。面白くて、役に立って、作れる案は普通に存在する。

だから結論は「意外性を捨てろ」ではない。見る順番を変えろ、である。Wow度を最初の足切りに使わなければ、この31%を取りこぼさずに済む。

06 / 発想法との関係

完全な乱択からは1件も出なかった

3条件すべてを満たした 70 件が、どの発想法から出たかを見ると、ひとつだけ目立つ結果があった。

発想法 全体 3条件クリア 率
時事から発想1725733%
2ジャンルの掛け合わせ20525%
4軸の完全な乱択1500%
その他(各 3〜6 件)218—

完全な乱択から出た 15 件は、1件も 3 条件を満たさなかった。全体の割合(31%)から期待される件数は約 5 件なので、たまたまとは考えにくい。

理屈も通る。乱択は意外性を最大化する装置なので、上で見たとおり自動的に実装難度も上がる。発想の起点としては有効でも、そのまま作る案を選ぶ用途には向いていないということになる。

ただし断定はできない。他の発想法は 1 手法あたり 3〜6 件しかなく、比較に耐える件数ではない。ここで言えるのは「乱択 15 件が 0 件だった」という事実までで、手法どうしの優劣を結論づけるにはデータが足りない。

それでも実務的な示唆は取れる。乱択で発想を広げたあと、そのまま採用せず、具体的な場面に落としてから選ぶ。絞り方は ニッチ市場の見つけ方 にまとめてある。

07 / 手順

選ぶ順番

  1. 実用性で足切りする。 他とぶつからない唯一の軸なので、先に切っても失うものがない。「誰の何が楽になるか」を120字で書けない案は落とす
  2. 実装難度を見る。 5段階なら 2〜3 が現実的な範囲。難度4の群は個人開発向き度が 3.19 まで落ちる
  3. Wow度は最後。 ここまで残った案のなかで比べる。最初に見ると、難度の高い順に並べているのと同じになる
  4. 具体的な場面から出た案を優先する。 乱択のまま採用しない
  5. 模倣耐性を確認する。 時間が経つほど深くなる要素が無いなら、初期設計に入れる
  6. 作らないものを決めてから着手する。 MUST と同じ数だけ WON'T を書く
よくある順番
面白い順に見る → 一番ワクワクする案を選ぶ → 作り始めて重さに気づく
実データにもとづく順番
実用性で足切り → 難度で絞る → 残ったなかで一番面白いものを選ぶ
候補の集合は同じでも、順番を変えるだけで選ばれる案が変わる。面白さを諦めるわけではなく、面白さを最後に使う。

選んだあとの工程は 差別化と参入障壁 と MVP仕様書のテンプレート に続く。

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08 / FAQ

よくある質問

Q. 複数の案からどれを選ぶ?
実用性 → 実装難度 → Wow度 の順。Wow度と実装難度は r=+0.46 で連動するので、面白い順に見ると自動的に重い案が上に来る。
Q. 面白い案と作れる案は両立しない?
両立しにくいだけ。Wow度4以上かつ個人開発向き度4以上は81件(36%)で、独立なら期待値95件の0.85倍。3件に1件は両立している。
Q. 実用性は犠牲にしなくていい?
いい。実用性はWow度とも個人開発向き度とも無相関(r=−0.02 / +0.03)。実用性4以上の割合はどの群でも84〜90%で動かない(いずれもAIの採点内での傾向)。
Q. 実装難度はどこまで許容できる?
5段階で2〜3。難度2の群は個人開発向き度3.81、難度4の群は3.19まで落ちる。
Q. ランダム発想と状況発想で差はある?
3条件クリアは全体31%だが、完全な乱択15件では0件だった。ただし他の手法は3〜6件しかなく、手法どうしの優劣は断定できない。
Q. AIのスコアはどこまで信用できる?
個々の点数ではなく傾向を見る道具として使う。この記事も1件ずつの絶対値ではなく228件を通した相関として読んでいる。
Q. 候補が1つしかない場合は?
選ぶ工程が無いので実用性を検算する。誰の何がどう楽になるかを120字で書けるか。書けないなら対象が未定。
Q. 選んだあとは?
模倣耐性の確認と、作らないものの決定。MUSTと同じ数だけWON'Tを書いてから実装に入る。

SUMMARY

主題
個人開発の Webサービス で、出てきた複数のアイデア候補からどれを選ぶか
結論
見る順番を 実用性 → 実装難度 → Wow度 に変える。Wow度と実装難度が連動するため、面白い順に見ることは実質的に「重い順に並べる」ことになる
一次観測(2026-09-04時点、n=228)
アーカイブの Webサービス案 228 件について、AI が付けた Wow度 / 実用性 / 実装難度(各1〜5)と、深掘り分析の個人開発向き度(1〜5)の相関を取った。Wow度 × 実装難度 r=+0.46(|t|=7.7)/ 実装難度 × 個人開発向き度 r=−0.37(|t|=5.9)/ Wow度 × 個人開発向き度 r=−0.25(|t|=3.8)。一方 実用性 × 個人開発向き度 r=+0.03、Wow度 × 実用性 r=−0.02 はいずれも |t| が 0.4 以下で、関係が無いと読む水準
Wow度ごとの平均
Wow2(n=7): 難度1.86 / 向き度4.00 → Wow3(n=81): 2.26 / 3.81 → Wow4(n=126): 2.77 / 3.56 → Wow5(n=14): 3.21 / 3.57。階段状に、難度が上がり向き度が下がる
実用性がトレードオフの外にある根拠
実用性4以上の割合は 全体87%(199/228)/ Wow度が高い群84%(118/140)/ 個人開発向き度が高い群90%(139/155)/ 両方高い群86%(70/81)。どの群でも 84〜90% で動かない。だから実用性は最初の足切りに使ってよい(先に切っても他を失わない)
両立は可能か
Wow度4以上 かつ 個人開発向き度4以上 は 81件(36%)。2つが独立だった場合の期待値 95 件に対して 0.85 倍。「両立しにくい」は正しいが「両立しない」は言い過ぎ。実用性も含めた3条件すべて4以上は 70件(31%)
発想法との関係
3条件クリア率は 時事から発想 33%(57/172)/ 2ジャンルの掛け合わせ 25%(5/20)/ 4軸の完全な乱択 0%(0/15)。全体31%から期待される約5件に対し0件なので偶然とは考えにくいが、他の手法は各3〜6件しかなく、手法どうしの優劣は断定できない。乱択は意外性を最大化する装置なので実装難度も上がる、という理屈とは整合する
選ぶ手順
① 実用性で足切り(120字で「誰の何が楽になるか」を書けるか)② 実装難度で絞る(5段階で2〜3)③ 残ったなかで Wow度を比べる ④ 具体的な場面から出た案を優先 ⑤ 模倣耐性を確認 ⑥ WON'T を MUST と同数書いてから着手
注意
スコアは AI が付けたもの。個々の絶対値ではなく 228 件を通した傾向として読む
対象読者
個人開発者・一人法人。スコープは Webサービス に限定、ネイティブアプリ・ハードウェアは対象外
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面白さは、最後に使う。

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